第159 回研究談話会 平成24年3月31 日 ・ 藤女子大学
ネイティヴ・スピーカーは誰なのか
――Chang-rae Lee, Native Speaker における英語イデオロギー
発表者: 伊藤 章 (北星学園大学)
要旨
韓国系アメリカ人、Chang-rae Lee の処女作、Native Speaker (1995) は出版されるや評判になり、ヘミングウェイ協会賞など多数の賞を授与された。じつに多様な解釈が可能なテキストであるが、ここでは移民と言語の関係に焦点をあてたい。家庭で韓国語を使っていた語り手は、いかにして英語をマスターしていったのか。韓国語から英語への移行はどのようなものであったのか。英語を学ぶということはどういうことなのか。アジア系でも、ネイティヴ・スピーカーになれるのか。英語が流暢でなければ、アメリカ市民として正式に認知されないのか。そもそもネイティヴ・スピーカーとは誰なのか。そういった問題を問いかけたテキストとして読み解くことにしよう。そこから、アメリカにおいて英語という言語に特別な意味と価値を付与する、英語イデオロギーというべきものが、多文化主義の現代においても移民を支配していることを明らかにしたい。
報告者: 皆川 冶恵 (北海道教育大学)
平成23年度最後の談話会は、伊藤章氏(北星学園大学)が、新進気鋭の韓国系アメリカ人作家 Chang-rae Lee の処女作 Native Speaker (1995) を紹介されました。アジア系アメリカ人作家の作品になじみの薄い聴き手にもわかりやすいよう配慮がなされており、用意していただいた資料もおおいに役立ちました。アジア系アメリカ人の歴史から、韓国系アメリカ人作家の系譜を含む背景を丁寧に説明していただきました。
引き続き Native Speaker の移民と言語に焦点をあて、「ネイテイヴ・スピーカーは誰なのか」という問いに沿って、作品を説明、解釈されました。英語の優位性を常に意識させられながら生きる移民が抱える問題の多様性を映す作品でした。主人公兼語り手の韓国系ヘンリー・パークの回想を中心に物語は展開します。主にヘンリーと父の関係、妻との関係、彼らの息子の事故死、そして興信所調査員であったヘンリーの調査対象の韓国系市議会議員の話が盛り込まれています。理想的な標準英語は、作品中スコットランド系白人である妻のリーリアの自分の英語が基準であると語る言葉に象徴されています。しかし、作品の最後には、興信所の仕事を辞め、スピーチ・セラピストの妻と協力して移民の子供達に英語を教えるヘンリーの姿に、夫婦の和解と誰でもネイテイヴ・スピーカーになれるという希望的な観測が暗示されています。
最後に伊藤氏は流麗な英語を駆使する著者が「ネイテイヴ・スピーカー」ではないかと述べ、発表を締めくくられました。