【英語学と言語学】

まず、英語学(English Linguistics)とは、文字通り英語(English)の言語学(linguistics)のことであり、単なる「英語の学」などというものではなく、れっきとした学問の一分野である。われわれは言語を日常あまりにも当然のものとして使用しているので、それを学問的に研究する、ということが一般の人にはしばしば理解されないかもしれない。しかし、言語は確かにコミュニケーションの「道具」であるが、英語学者を含め言語学者にとってはそれだけにとどまらず、それは研究の「対象」となる。その言語の構造はどうなっているのか、それは人間の精神をどう反映しているのか等々、考察すべき点は多い。

ついでながら、大学で「英語」を教えている教員は、単なる英語教員なのではなく、それぞれ英語学、英文学、米文学、英語教育などを専攻する研究者である。何故、こんなことをわざわざ付け加えたかというと、普段行う「英語」の授業では、学生のレベルに合わせて教えなければならないので、「大学の英語」といっても実際には中学校や高校で修了したはずのことをおさらいするのがやっとで、なかなか研究成果を授業に生かすことができないという現実があり、またそのことが一般にはあまり知られていないと思われるからである。

さて、英語学が言語学の一分野であることはすでに述べたが、その言語学とは「言語を科学的に研究する学問」のことであり、この場合の「言語」とは、人間の言語全般を指しいてる。したがって、英語学とは言語学の中でも、英語という特定の言語を中心的に研究する学問であるということが理解されよう。そして、言語学とは英語学に限らず、フランス語学、ドイツ語学、中国語学、ロシア語学等々の総体である。しかし、1つの言語だけを見ていたのでは独断に陥る危険性もあるので、他の言語についての知識もしばしば必要になってくる。その意味で、英語学と言語学は相互に補い合うべきものである。

ちなみに、「英語学」という言い方は、世界的に見るとあまり一般的な名称ではない。そのことに関して、東京都立大学の中島平三教授はその編著書の中で次のように述べているので、参考にされたい。

   The expression "English linguistics" may sound somewhat strange to Westerners, who use the term "linguistics" to denote the study of human language in general, and not that of a particular language. However, the study of linguistics in the Western sense is very rare in Japan; most linguistic activities are concerned with particular languages. The term "linguistics" is sometimes even understood to be equivalent to "theoretical linguistics of English", because linguistic study of English is the most common type of linguistic work carried out, and the theoretical approach is that most common in English linguistics.
(Heizo Nakajima ed., Current English Linguistics in Japan, 1991. Mouton de Gruyter.)