第134回研究談話会  平成21年1月31日・藤女子大学

   

ジャマイカを詩ったクロード・マッケイ――ハーレム・ルネサンスのカリブ文学

   

      発表者: 寺山 佳代子 (國學院短期大学)


 

要旨


  フェスタス・クロディアス・マッケイ(Festus Claudius McKay 1889? 1890?-1948)はジャマイカで生まれだが、1912年アメリカへ移住し、農業を学ぶためにタスキギー学院へ入学する。タスキギーでの田舎生活は二ヶ月で飽きて、キャンサス農業大学へ移る。この大学に二年間在学するが退学し、文学を志し23歳でハーレムへ移り住む。
 1922年春、Harlem Shadows を出版する。このアンソロジーはマッケイがアメリカに住むようになってから創った詩を集めている。発表ではこのアンソロジーから “The Harlem Dancer” と “The Tropics in New York” を取り上げ検討する。1920年代のアメリカは農業社会から、産業化され近代工業社会へと変わりつつあるなかで、物質文明生活の空虚と芸術の沈滞は知識人をエキゾチシズムや原始主義へ逃避させる。マッケイのアメリカでの詩人としてのデビューは、白人が原始性を求める1920年代の風潮と合致することにより成功する。またハーレム・ルネサンスの特徴のひとつである原始主義を促進させる。原始性を志向するブームを先駆けたマッケイは、ハーレム・ルネサンスへの最初の貢献者であり、原始主義の視点から生涯作品を書き続け、ハーレム・ルネサンスの不可欠な詩人であり作家である。



   

      発表者・司会者: 本城 誠二 (北海学園大学)


 

報告


 寺山氏はハーレム・ルネサンス期に活躍したジャマイカ生まれの詩人 Claude McKay (1889-1948)の Harlem Shadows (1922)からの2編の詩と彼の文学的遍歴について述べられた。ハーレム・ルネサンスは、工業が発展し物質文明を謳歌するアメリカで黒人文化が花咲いた時期だが、マッケイがその時期にアメリカを離れていたにも関わらず重要な詩人とみなされるのは、他のアメリカ生まれの黒人詩人とは異なる原始性が評価されたとする。また取り上げた2編の詩 “The Harlem Dancer” と “The Tropics in New York” が、アレン・ロックの編集した The New Negro (1925)に収録されたのもその特徴が評価されたとする。 “The Harlem Dancer” においては、その美しさと歌と踊りのうまさが賞賛されていてもダンサーは所詮その演芸的技能を白人観衆に消費される社会的・経済的に搾取される存在であり、語り手(=詩人)はその華やかさの陰の孤独を代弁する。 “The Tropics in New York” では故郷ジャマイカを喚起させる果物をあげて、語り手のアメリカでの疎外感を描いている事を、寺山氏訳で説明された。また長きにわたるヨーロッパ遍歴がアメリカには馴染まないマッケイのエグザイル的世界観とジャマイカへの土着性に由来するとした。
 質疑では、この2編の詩にマッケイの特徴である原始性を見ることは難しいのではという意見が出された。確かにこのソネット形式の望郷の詩が原始性を表現していると考えるのは少し違うかもしれない。また詩を取り上げたのだから、もう少し詳しく分析してほしいとの要望もあった。これもその通りで詩の内容の社会的・文化的分析と同時に語法・メーター・イメジャリーについても聞きたいところであった。
 全般としては、ラングストン・ヒューズやカウンティ・カレンなど、この時期の黒人詩人の翻訳と研究をされている寺山氏が、一般にあまり取り上げられる事の少ないマッケイの詩と文学的特徴を紹介してくれて参考になった。



   

日本におけるフランク・ノリス研究について

   

      発表者: 岡崎  清 (札幌学院大学)


 

要旨


  昭和4年ノリスの短編が翻訳されてからこんにちに至るまで日本におけるノリスの受容史を辿ってみたいと思います。



   

      報告者: 本城 誠二 (北海学園大学)


 

報告


  岡崎氏は、1990年代に続いて2度目のバークレー滞在で、フランク ・ノリスの全作品を精読し、先行研究について調べられた。帰国後に作られた詳細な「日本におけるフランク ・ノリスの研究」書誌を参照しながら、フランク ・ノリスの略歴、日本における昭和初期から研究とそれぞれの時期の特徴、これからの研究の課題について述べられた。
 岡崎氏が強調したかったと思われる点を二点あげると、板橋氏による「アメリカ自然主義」の再考論(1975年)と、平石氏が論ずる20世紀前半のアメリカ小説におけるノリスの位置(1998年)である。いずれも『英語青年』掲載の論文についてであるが、板橋氏はロマンティスト的自然主義のノリスに対して、先輩作家のクレインは自然主義的悲劇を人間喜劇に止揚できる作家として評価している。また平石氏は20世紀前半のアメリカ小説ベスト ・テンにあえて1899年の『マクティーグ』を取り上げ、ノリスやロンドン、チャンドラーなどの西海岸作家がそのローカル ・カラー的特色を超えて、 貧困や人種を含むアメリカ資本主義へのアンチ ・テーゼを表出する小説家であるとして、彼らを南部作家に含める興味深い考え方を提示している。
 またその後の新しいノリス批評の視点の紹介もあり、これからのノリス研究の重要な資料となるだろう書誌の作成・紹介もふくめて、意味深い発表であった。
 なお、当日岡崎氏が配布された資料は、ノリス研究の文献資料としても極めて貴重なものなので、氏の許しを得てHPにも登載することにした。ここをクリックしてご覧戴ける。


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